2024年金鉱株の相場の張り方についてまとめてみました。同様の内容は、以前もまとめていますが最新版として更新しました。

基礎編:金が買われるとき、売られるとき
金はドルへの信認が揺らいだ際、買われる傾向がある。金には利子も配当もないから、高金利下では利子や配当がない分、金は不利となる。
金が買われる局面
金融システムの不安:2008年のリーマンショックで金融システム全体に対する不安が高まった際。
ドル安:QEに代表される積極的な緩和策は、ドルの価値を毀損するリスクを孕んでいたとき。
インフレ初期の局面:1973年、コモディティ価格の高騰で石油株や金鉱株が大相場になりました(インフレも度が過ぎると暴落になるから要注意)。
金利政策の緩和:各国中央銀行が緩和的な金利政策を今後も当分の間維持せざるを得ないだろうという諦観が市場参加者の間に広がっているとき。
中央銀行が買い手に回っているとき:米ドルではなく金で準備金を積み上げることが、各国の中央銀行で流行しているとき。米国の外交政策が近年、諸外国にとってフレンドリーでなくなってきたことが少なからず影響しています。対米関係が冷え込む中、米ドルで準備を積むことはしたくないと考える国が増えているのです。
ロシアの資産が凍結される様子を見た新興国の中央銀行がリスクヘッジのために金の延べ棒を買い始めたとき。
需給関係の好転:産金会社が金生産を絞り込み、需給関係が改善したとき。
チャートの上値更新:チャートが過去最高値の水準のとき。過去最高値はレジスタンス(上値抵抗線)と考えられるが、もしブレイクアウトすれば、そこで一斉に新規の買いが入ると予想される。
金が売られる局面
金利の上昇:金利が上がるとき、売られる傾向がある。
ドル高:フェデラルファンズ・レートの引き上げはドル高要因であり、それはドルと逆相関の動きをする金にとってマイナスです。
金への投資方法
金への投資方法は、ETF投資と金鉱株投資のふたつ。
ETF投資
一番カンタンな方法は、SPDRゴールドシェア(GLD)というETF(上場投資信託)を買うやり方。
一番簡単なのはETFを買う。このやり方がお手軽。金価格そのものに投資したい場合はこれが良い。
SPDRゴールドシェア(ティッカーシンボル:GLD)というEFTがあり、NY市場に上場されておりアメリカ株を買うやり方で買える。これが簡単。
そのほか、金鉱株のETFを買うやり方もある。代表的な金鉱株ETFには、ヴァンエックベクトル金鉱株ETF(ティッカーシンボル:GDX)。ヴァンエックというのは運用会社の名称。規模としては中堅ですが老舗の運用会社。産金会社のなかでも大型株を組み入れている。
つぎに小規模な産金会社を組み入れているETFもある。ヴァンエックベクトル中小型金鉱株ETF(ティッカーシンボル:GDXJ)。中小型株になるので少し値動きが荒っぽい。
金鉱株投資(個別株)
代表的な銘柄ではアメリカ最大の産金会社でニューモント(ティッカーシンボル:NEM)、比較的生産コストが高くて業績変化率が大きい(オペレーティングレバレッジが大きい)のは南アフリカの企業でアメリカに上場されているアングロゴールドアシャンティー(ティッカーシンボル:AU)もある。
金価格が急上昇している局面では、産金会社の利益は往々にして、金価格の上昇率以上に増大する。
株価の値上がり幅が大きくなる傾向があるため、金そのものに投資するよりも、金鉱株投資のほうが儲けやすいということ(これをオペレーティング・レバッジ現象という)。
金鉱株の重要指標(採掘コスト)について
産金会社が地中から1オンスの金を掘り出すとき、ブルドーザーのお金やワーカーの賃金コストが発生します。産金にまつわるすべてのコストをAISC(All-In Sustaining Costs)といいます。
採掘コスト(AISC=All In Sustainable Costs)は各社の採算ラインを知る上で最も重要な指標となります。
AISCが高い会社は、利益が出るまでにたくさんお金がかかります。でも、金の値段が上がって会社が利益を出し始めると、その分、会社の成績が大きく変わりやすくなります。ここからの業績変化率は高くなるのです。これを『オペレーティング・レバレッジが大きい』と言います。
AISCが高い企業ほど、なかなか利益が出ません。このことを会計用語では損益分岐点が高いという。つまり、高コスト体質だということ。
逆に言えば、高コスト体質な企業は、それ以上に金価格が上昇した場合、利益が面白いようにするする伸びます。つまり、利益の伸び率でいえば、高コスト体質企業のほうが利益が鋭角的に伸びやすい。
要するにボロ株のほうが面白い。これがオペレーティングレバレッジと呼ばれる現象。
上記のグラフは、この記事を書いている2024年10月時点での各金鉱株銘柄のAISCです(年次報告書から飲用できます)。現在の金価格が上記AISCよりも上であれば、金を採掘すればするほど儲かる…という意味になります。
採掘コストが高ければ高いほど儲けにくいが、AISCよりも金価格が上昇すれば途端に利益が確保されることになります。
金鉱株のバリエーション分析
産金会社の価値(時価総額)を、会社が持っている金の量(確認埋蔵量)で割ると、1オンス(少しの量)の金が、どれくらいの価値だと株の世界で考えられているかがわかります。
時価総額÷確認埋蔵量(リザーブ)で、眠っているゴールド1オンスに対して、株式市場の投資家は何ドルを株価に払っているかがわかる。
南アフリカの金を採る会社は、お金がかかるため、株の値段が大きく変わりやすいです。だから、金の値段が下がる時には、南アフリカの会社の株は長く持っておくのにはあまり向いていないと言えます。
一方で、あまりお金をかけずに金を採れる良い会社は、株の値段があまり大きく変わらないので、南アフリカの会社と比べて、リスクが少ないかもしれません。
金鉱株のリスクについて
オペレーションリスク(操業リスク)、環境問題リスク、財務リスク、政治リスク、確認埋蔵量見積が間違えるリスク、政変リスクがある。それを踏まえた上で投資する必要がある。
ゴールドそのものと産金会社に投資する違い
金価格が上昇している局面では、往々にして金価格の上昇率よりも金鉱株の株価上昇のほうが早い。その理由は、オペレーティングレバレッジと呼ばれる現象があるから(生産コストが高くて業績変化率が大きいから)。
逆に金価格がするすると下落する場合、金価格の下落よりも金鉱株の価格下落がひどい。金価格が下がっているときには、金鉱株を買ったまま放置してはいけない。
金鉱株銘柄の特徴
以下、代表的な金鉱株銘柄について特徴をまとめています。
バリックゴールド
バリック・ゴールド(ティッカーシンボル:ABX)は、確認埋蔵量(7,600万オンス)ベースで世界最大の産金会社。北米、アフリカ、ラテンアメリカの主要な採掘プロジェクトが含まれており、ネバダ州のGoldrushやFourmileなどのプロジェクトで生産拡大を進めています。
買収に次ぐ買収で大きくなってきた経緯があり、比較的負債が多い。そのため、金価格が低迷した折には高い負債比率が嫌気され、株価が低迷する原因となった経緯があります。
2024年の通期ガイダンスは、金の総現金コストは1オンスあたり約1,320〜1,420ドル、維持費用を含む金生産コスト(AISC)は1,320〜1,420ドルとなっています。
また、バリックは銅のポートフォリオも強化しており、パキスタンのReko Diq鉱山などで大規模な生産が見込まれています。Barrick Barrick Barrick
ニューモント・マイニング
ニューモント・マイニング(ティッカーシンボル:NEM)はアメリカ最大の産金会社です。同社は銅、銀も生産しています。
2023年末時点での確認埋蔵量は、金が約136百万オンス、銅が300億ポンドに達しています。この埋蔵量は、ニューマントによるニュクレスト社の買収や探鉱活動の成果により大幅に増加しました。
2024年の金の採掘コスト(CAS)は1オンスあたり約1,050ドル、金の総持続コスト(AISC)は約1,400ドルと予測されています。
M&Aの憶測は絶えることが無い。後ろ向きのM&Aでは高いプレミアムを支払う買収提案は期待薄だと思います。従ってM&A期待から金鉱株に投資するという切り口は、必ずしも成功を約束しないと思います。
アングロゴールド・アシャンティ
アングロゴールド・アシャンティ(ティッカーシンボル:AU)は南ア最大の産金会社で売上高ベースでは世界第3位です。
確認埋蔵量
同社は2024年の金生産目標として、2,590万〜2,790万オンスを予測しています。これは、自社鉱山とジョイントベンチャーを合わせたグループ全体の生産量であり、オーストラリアやアメリカを含む安定した地域に重点を置いています。Vault Fitch Solutions
採掘コスト
2023年の報告によると、アングロゴールド・アシャンティの全持続コスト(AISC)はオンスあたり約1,300〜1,400ドルでした。地域ごとにコストは異なり、特にアフリカの鉱山ではコストが上昇する傾向があります。 AngloGold Ashanti
これらの数値は、今後の地域ごとのパフォーマンスにより変動する可能性があり、特にオーストラリアやアメリカでの生産増加が期待されています。
南アの金山は低成長である、2)海外の金山は今後成長が見込まれ、事業拡張のための資金調達をする必要がある
南アの金山は地中奥深くへ掘り進む立坑の構造であり、アメリカやインドネシアに多く見られる露天掘りに比べてコスト高です。
南アフリカは早くからゴールドが出ることで知られており、100年以上の社歴のある老舗産金会社が多く、ずっと生産を続けてきたため、いまは地底深くに降りていかないと金がありません。つまり簡単にアクセスできるところは取り尽くしてしまったのです。そのため、南アフリカの産金会社は一般に採掘コストが高く、したがって株式市場での評価も低いのです。
キンロス・ゴールド
キンロス・ゴールド(ティッカーシンボル:KGC)はカナダのトロントに本社を置く産金会社です。同社の採掘コストはオンス当たり919ドルで、これはかなり低いです。
キンロス・ゴールド(ティッカーシンボル: KGC)の2024年第1四半期の報告によると、同社は金換算で527,399オンスの生産を記録し、前年度から13%の増加を見せました。2024年の確認埋蔵量に関しては、約210万オンスの金換算の生産を予定しています。
採掘コストに関しては、2024年第1四半期の1オンスあたりの販売コストは平均で982ドルとなり、前年度の987ドルからわずかに減少しています。また、全持続コスト(AISC)は1オンスあたり1,310ドルと報告されました。Kinross Gold Corporation Kinross World Online Newsletter
コスト削減を進めつつ、生産量を拡大していることがわかります。
ハーモニー・ゴールド・マインズ
ハーモニー・ゴールド・マインズ(ティッカーシンボル:HMY)は南アフリカ第3位の産金会社です。
同社は過去に比較的高コスト体質だったので、採掘コストが下がってくると業績は著しく伸びます。オペレーティング・レバレッジが働きやすく、値動きが激しいため、ギャンブル銘柄として知られています。
同社はパプア・ニューギニアにゴルプという金山を持っています。この鉱床はエンパイア・ステート・ビル5個分に相当する大きさで、2,020万オンスのゴールド、940万トンの銅が眠っているとされます。
最新データによると、2024年度の金の確認埋蔵量は約1.4~1.5百万オンスと予測されています。2025年度に向けて、この埋蔵量を維持しつつ、主要な高品位プロジェクトや表面処理プロジェクトへの投資を継続しており、今後も成長が見込まれます。
2024年の採掘コストに関しては、1オンスあたり1,550ドル。全体の資本支出は約5億9200万ドルと見積もられており、採掘プロジェクトの維持と拡大に多額の資金が投じられています。
アグニコ・イーグル・マインズ
アグニコ・イーグル・マインズ(ティッカーシンボル:AEM)はカナダの中堅産金会社です。
低コスト体質が特徴。営業キャッシュフローを生む力には問題は無い。同社が高評価を受けている理由は、金価格が高いときも低いときも安定した業績が出せるようにロー・コスト経営に徹しているから。営業キャッシュフローを最大化することを心がけた経営を行っている。
2024年第2四半期の決算リリースによると、金の生産量は895,838オンス、1オンスあたりの総コスト(AISC)は1,169ドルでした。資産が強化され、ネット負債が大幅に減少しており、2024年の金生産とコストガイダンスを維持しています。



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